「初心忘れるべからず」とは
14~15世紀
室町時代の能を大成した、世阿弥の「 花鏡 」の最後の部分で
くり返し述べられていることば
未熟(初心)であった時の何か始めた時の下手だった記憶
味わったくやしい気持ちや恥ずかしさ
そこから今に至るまでの沢山の努力を忘れてはだめですよ?
慢心した時にこそ物事を始めた頃の初心に戻って
新鮮な気持ちで物事に取り組みましょう。
という意味。
仕事でも趣味でもスポーツでもなんでもそうですが
いつの間にか忘れてしまいがちなのが「初心」
あの時の気持ちを思い出せと言われても、なかなか思い出せないです
「ごんぎつね」でおなじみの新美南吉の短編「売られていった靴」は
そんな忘れがちな「初心」の時の気持ちを思い出させてくれる名作です
1分で読める程度のボリュームですので是非一度読んでみてください
1分で読める名作「売られていった靴」 あの時の新鮮な気持ちを思い出させてくれる新美南吉の名作
「売られていった靴」新美南吉 全文
靴屋のこぞう、 兵助(へいすけ)が、はじめていっそくの靴をつくりました。
するとひとりの旅人がやってきて、 その靴を買いました。
兵助は、 じぶんのつくった靴がはじめて売れたので、うれしくてうれしくてたまりません。
「もしもし、 この靴ずみとブラシをあげますから、その靴をだいじにして、かあいがってやってください。」と、兵助はいいました。
旅人は、 めずらしいことをいうこぞうだ、 とかんしんしていきました。
しばらくすると兵助は、 つかつかと旅人のあとを追っかけていきました。
「もしもし、その靴のうらの釘がぬけたら、 この釘をそこに うってください。」 といって、 釘をポケットから出してやりました。
しばらくすると、 また兵助は、 おもいだしたように、旅人のあとを追っかけていきました。
「もしもし、その靴、 だいじにはいて やってください。」 旅人はとうとうおこりだしてしまいました。
「うるさいこぞうだね、 この靴をどんなふうにはこうとわたしのかってだ。」
兵助は、「ごめんなさい。」とあやまりました。
そして、旅人のすがたがみえなくなるまで、 じっとみおくっていました。
兵助は、 あの靴がいつまでもかあいがられてくれればよい、 とおもいました。
底本:「 ごんぎつね 新美南吉 童話 作品集 1」 てのり文庫、大日本図書
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