「去年の木」は「ごんぎつね」の作者新美南吉の短編
2004年から2018年の14年間にもわたって中国の教科書に採用されていた
2021年中国で発表された小・中学生用学年別推薦図書に新美南吉の童話集2冊が選ばれるなど認知度が高い
もちろん日本でも新美南吉の作品は高く評価されており
「ごんぎつね」は60年以上教科書に採用されている
「去年の木」は成人であれば1分程度で読める短編
にもかかわらず
楽しさ、寂しさ、温かさ、読後の余韻…など色々な情緒を感じさせてくれます
まだ読んだことのない人はもちろん、
一度読んだ方ももう一度読んでみましょう
『去年の木』 新美南吉 全文
いっぽんの木と、いちわの小鳥とはたいへんなかよしでした。小鳥はいちんちその木の枝で歌をうたい、木はいちんちじゅう小鳥の歌をきいていました。
けれど寒い冬がちかづいてきたので、小鳥は木からわかれてゆかねばなりませんでした。
「さよなら。 また来年きて、 歌をきかせてください。」
と木はいいました。
「え。それまで待っててね。」
と、 小鳥はいって、南の方へとんでゆきました。
春がめぐってきました。 野や森から、 雪がきえていきました。
小鳥は、なかよしの去年の木のところへまたかえっていきました。
ところが、 これはどうしたことでしょう。 木はそこにありませんでした。根っこだけがのこっていました。
「ここに立ってた木は、どこへいったの。」
と小鳥は根っこにききました。
根っこは、
「きこりが斧でうちたおして、谷のほうへもっていっちゃったよ。」
といいました。
小鳥は谷のほうへとんでいきました。
谷の底には大きな工場があって、木をきる音が、びィんびィん、としていました。
小鳥は工場の門の上にとまって、
「門さん、わたしのなかよしの木は、どうなったか知りませんか。」
とききました。
門は、
「木なら、工場の中でこまかくきりきざまれて、マッチになってあっちの村へ売られていったよ。」
といいました。
小鳥は村のほうへとんでいきました。
ランプのそばに女の子がいました。
そこで小鳥は、
「もしもし、マッチをごぞんじありませんか。」
とききました。
すると女の子は、
「マッチはもえてしまいました。 けれどマッチのともした火が、 まだこのランプにともっています。」
といいました。
小鳥は、ランプの火をじっとみつめておりました。
それから、去年の歌をうたって火にきかせてやりました。火はゆらゆらとゆらめいて、こころからよろこんでいるようにみえました。
歌をうたってしまうと、小鳥はまたじっとランプの火をみていました。 それから、どこかへとんでいってしまいました。
底本:「 ごんぎつね 新美南吉 童話作品集1」 てのり文庫
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