【中本中也】

【青春の詩】 ―教科書に採用される頻度の高い中原中也の詩 3選―

 

青春の切なさや、人生の悲しみをうたった繊細さが特徴的な中原中也の作品は

中学や高等学校の現代文教科書に採用される事が多く

 

 

一度は読んだことがあるという人も多いと思います

 

 

今回は近年特に教科書に採用されている3つの詩をご紹介ます

 

 

昔読んだけどあまり覚えていいない人、

読んだことが無い人、

すごく記憶に残っている人

 

 

名作は何度も時期を変えてふれる事で

感じ方が違ったり、新しい解釈ができたりと

自分の成長を感じる事ができるので、おすすめです

 

 

サーカス 中原中也

 

幾時代かがありまして    
  茶色い戦争ありました

 

 

幾時代かがありまして    
  冬は疾風吹きました

 

 

幾時代かがありまして  
  今夜此処ここでの殷盛さかり      
    今夜此処ここでの殷盛さか

 

 

サーカス小屋は高いはり

  そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ

 

 

さかさに手を垂れて

  汚れ木綿の屋蓋やねのもと

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

 

 

それの近くの白い灯が    
  安値やすいリボンと息を吐き

 

 

観客様はみな鰯  
  咽喉のんどが鳴ります牡蠣殻かきがら
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

 

 

   屋外やぐわいは真ッくら   くらくら    
   夜は劫々こふこふと更けまする  
   落下傘奴らくかがさめのノスタルヂアと

   ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

 

 

  

しりとり先生
しりとり先生
詩全体に漂う郷愁やもの悲しさのなかで、「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」という空中ブランコのオノマトペが和らげてくれます

 

 

汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也

 

 

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

 

 

汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘かはごろも
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる

 

 

汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠けだいのうちに死を夢む

 

 

汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気おぢけづき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

 

 

 

しりとり先生
しりとり先生
同棲していた彼女が親友と恋に落ち、家を出て行ってしまい、故郷から遠く離れた東京で独りぼっちになってしまったという体験をもとにかかれた詩です。

  

 

一つのメルヘン 中原中也

 

 

秋の夜は、はるかの彼方かなたに、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。

 

 

陽といつても、まるで硅石けいせきか何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。

 

 

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。

 

 

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は

さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……

 

 

 

しりとり先生
しりとり先生
秋の夜なのに、さらさらとさらさらと陽が差している、、幻想的で神秘的なまさしくメルヘンな風景です。小石ばかりの無機質な河原(死)で、蝶が来ることで川床に水(生)が流れはじめます。

 

 

 

 

中原 中也(なかはら ちゅうや)
1907~1937 山口県生まれ

 

音律にすぐれた抒情詩を発表。 1930年代半ばから詩壇に認められるが,1936年の長男の死によって精神の均衡を失し,翌年結核性脳膜炎を発病して没した 享年31歳