青春の切なさや、人生の悲しみをうたった繊細さが特徴的な中原中也の作品は
中学や高等学校の現代文教科書に採用される事が多く
一度は読んだことがあるという人も多いと思います
今回は近年特に教科書に採用されている3つの詩をご紹介ます
昔読んだけどあまり覚えていいない人、
読んだことが無い人、
すごく記憶に残っている人
名作は何度も時期を変えてふれる事で
感じ方が違ったり、新しい解釈ができたりと
自分の成長を感じる事ができるので、おすすめです
サーカス 中原中也
幾時代かがありまして
茶色い戦争ありました
幾時代かがありまして
冬は疾風吹きました
幾時代かがありまして
今夜此処での一と殷盛り
今夜此処での一と殷盛り
サーカス小屋は高い梁
そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ
頭倒さに手を垂れて
汚れ木綿の屋蓋のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
それの近くの白い灯が
安値いリボンと息を吐き
観客様はみな鰯
咽喉が鳴ります牡蠣殻と
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
屋外は真ッ闇 闇の闇
夜は劫々と更けまする
落下傘奴のノスタルヂアと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠のうちに死を夢む
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……
一つのメルヘン 中原中也
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といつても、まるで硅石か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……
中原 中也(なかはら ちゅうや)
1907~1937 山口県生まれ
音律にすぐれた抒情詩を発表。 1930年代半ばから詩壇に認められるが,1936年の長男の死によって精神の均衡を失し,翌年結核性脳膜炎を発病して没した 享年31歳